WebOSの意味

はじめに

今回はWebOSのひとつのスタイルである、オンラインデスクトップ環境のあり方について考えて見ます。
よろしければ、一緒に考え、突っ込みを入れてください。
前回も触れましたが、WebOSという言葉には、認知された定義は無い様子です。
たとえば、次のようなシーンでもWebOSという言葉が使用されています。

  • Webブラウザから利用できるオンラインデスクトップ環境
  • Webの技術を利用した分散コンピューティング環境
  • 世界に広がるWeb環境そのものをOSと見做したコンピューティングパラダイム

今回は、オンラインデスクトップサービスを題材にWebOSの意味について考えて見ます。

オンラインデスクトップサービスの意味

シンクライアントモデルのオンラインデスクトップサービス

 単純にオンラインのデスクトップ環境を提供するだけであれば、Linux+VNCにより、無料のソフトウエアのみで実現する事もできます。1台のサーバで、同時におそらく数十人が豊富なLinuxアプリケーションを持つLinux環境を利用できるわけです。JAVA版のクライアントであれば、クライアントPCへの事前のインストール作業も不要でお手軽です。
 但し、動画や音声の再生までやろうとすると、VNCだけでは無理がありそうです。
 もちろんWindwsでも、有償ながらTerminalServiceを利用する事で同様の機能を利用できます。

 VNCやWindowsTerminalServiceのように、OSもアプリケーションもほぼ100%サーバOS上で動作し、端末側では、画面表示やキーボードやマウスの入力処理のみを実行するモデルは、シンクライアントと呼ばれます。シンクライアントスタイルの技術はWindowsよりも歴史が有り、UNIXシステムで標準的に使用されているX Window Systemもこの分類に入る技術ですし、いくつかの企業が様々な改良を施したシンクライアント関連製品を販売しています。
 しかし、なぜかシンクライアント技術を利用して、デスクトップ環境を広く一般向けに提供するタイプのサービスの存在は聞きません。これはなぜでしょう?

 シンクライアントでは、サーバOS上で動作する全てのアプリケーションが利用可能であり、ユーザはサーバOSが提供するデスクトップ環境をそのまま利用できます。これは大きなメリットです。
 反面、サーバの負荷が比較的高くなるという短所があります。おそらく、1台のサーバで同時に利用できるユーザ数は数十人から多くても100人程度まで。しかも、原則として全ての操作や画面の描画処理で通信が発生するので、ネットワーク負荷も比較的高くなります。
 サーバやネットワークなどのコストに加えて、端末側にもPCか専用のシンクライアント端末が必要である事を考えると、コスト上のメリットが乏しい事は容易に想像できます。
 さらに、Windowsなどの有償OS環境を提供する場合には、そのライセンス料金も比較的高額です。

 企業や公官庁では、セキュリティやシステム管理の観点から価値が認められて採用されるケースが有り、シンクライアント技術は、企業・公官庁向けの技術というのが一般的な見方の様です。

 今後、世の中の変化により、シンクライアントモデルでのコンピューティングサービスが広く普及する可能性も否定はできませんが、現時点ではそうした兆候は見られません。

AJAXFlashによるオンラインデスクトップサービス

 いわゆるリッチクライアントと呼ばれる技術で構成されたオンラインデスクトップ環境です。
 この技術では、処理の一部をクライアントサイドで実行する為、サーバシステムの負荷は、シンクライアントモデルに比べると、おそらく1桁程度以上小さくなります。通信量も減らせるので、ネットワークのコストも、低減できます。さらに、オープンな技術の利用によってライセンス費用を支払う事無く提供できる事から、一般コンシューマ向けのサービスへの適用が考えやすくなります。
 その一方で、シンクライアント環境では可能であった、サーバOS上で動作するネイティブなアプリケーションやディスクトップ環境は利用できません。サービスを提供する為には、デスクトップ環境もアプリケーションプログラムも独自に用意する必要が生じます。

 Desktoptwoは、こうしたサービスの中で、比較的完成度の高いサービスです。自分専用のコンピュータを持たない人が、ネットカフェや学校などで利用するのには便利でしょう。
 無料のアカウントを取得すれば、1GBのストレージと共に、デスクトップ環境、オフィス系アプリケーションを含む、様々な機能を利用できます。メールアカウントも付いてきます。※OpenOfficeは、Webブラウザ上のVNCのコンソールで利用する仕組みになっています。
 国内唯一の一般向けオンラインデスクトップサービスであるStartforceは、純粋なAJAX実装による安定したデスクトップ環境を提供しており、開発環境も公開して、アプリケーションの充実に努めています。
 

オンラインデスクトップサービスは、未来のWebOSに発展してゆくのか?

 こうしたPCのデスクトップ環境を再現するスタイルのオンラインデスクトップサービスは、特定の隙間市場で、成功するかもしれません。しかし、それ以上の可能性を感じさせるには、まだまだ幼すぎる様に思います。
 既に自分専用のコンピュータを持つ人が利用するだけの理由に乏しい事は、ちょっと使ってみれば判ります。多くの人が以下のような感想を持つことでしょう。

  • 提供されている機能のほとんどが、ローカルPCで利用可能な機能と同等かそれ以下である。
  • アプリケーションの種類や機能が限定されており、レスポンスなど性能的にも劣る。
  • PCを起動した上でさらにオンラインデスクトップ環境を立ち上げなければいけない煩わしさがある。
  • 管理すべきデスクトップ環境が増えてしまうという心理負担。
  • オンラインで無いと基本的に利用できない。
  • ローカルデスクトップとの連携に乏しい。(一部のサービスでは、フォルダー同期ツール、バックアップツール、アプリケーションランチャ等の提供がありますが、シームレスとは言いがたい連携です。)

 結局は、オンラインデスクトップが、どんなにWindowsのデスクトップ環境に近づいても、その長所が短所を上回らない限り、大多数のユーザにオンラインデスクトップ環境を利用させるのは難しい様に感じます。Windowsのデスクトップ環境を置き換える事の難しさは、「デスクトップOSとしてのLinux」の歴史を見れば明らかです。

オンラインデスクトップサービスの未来

 さて、それでは、オンラインのデスクトップサービスに未来は無いのでしょうか?
 答えはYesでもNoでもあると思います。
 オンラインデスクトップが、ローカルPCとの十分な連携を取れぬまま、ローカルPCのデスクトップ環境と同等の機能の実現を目指している限り、そこに未来は見えません。
 裏を返せば、オンラインデスクトップサービスの未来は、ローカルPCのデスクトップ環境には出来ない事・困難な機能を提供し、ユーザにその価値を認めさせる事が出来るかどうかに掛かっているのではないでしょうか?

  • オンラインサービスの特性を生かしたデスクトップ環境
  • オンラインサービスの特性を生かしたアプリケーション
  • オンラインサービスの特性を生かしたOS機能
  • オンラインサービスの特性を生かした・・・

 この議論を突き詰めてゆくと・・・OS、デスクトップ、アプリケーション、ひいてはパーソナルコンピューティングの概念を再定義する事になりそうです。(少し飛躍し過ぎですか?)
 未来のパーソナルコンピューティングにおける、OS、デスクトップ、アプリケーションは、どんなものになるべきなのでしょうか?

 次回は、もう少し視野を広めてWebOSのあり方について引き続き考えて見ましょう。